被災した文書の復旧処置システム・マニュアル

津波により汚泥や塩水を被った資料は、被災現場から緊急避難が行われ、カビの発生や拡大を防ぐために乾燥まで持ち込めたとしても、現物としてそのまま利用に供することは難しいものが大半である。これらの資料のうち、現物として「かけがえのないもの」については、物理的に泥を除去し、真水で汚れや塩分を洗い、乾燥させ、フラットにする必要がある。ここで紹介する東文救復旧処置法は、資料の解体から始まり、最後の乾燥・フラットニングにいたるまでの一連の工程をシステム化したものである。どこにでも手に入る機材を用い、専門家ではない方々でも資料を傷めることなく、効率的に復旧作業に従事できることを眼目に、当社の専門的な技術やノウハウ、さらには実用新案と特許を元にして若いスタッフが一致協力して作り上げた。非営利的な利用に限って無償で公開する。これから復旧作業に関わる被災地の方々や機関、すでに従事されている方々等に大いに活用していただきたい。なお、導入にあたっては、復旧計画を当方へお知らせいただくとともに、口頭あるいは論文等での発表の際には「東文救復旧システム」であることをクレジットすることを、システム利用の条件にさせて頂く。今回の未曾有の被災状況に鑑み、私企業として培った技術を秘匿すること無く、全てを無償公開している私どもの「思い」をお汲み取りいただき、良識と信義ある活用をお願いしたい。ご不明な点があれば質問にお応えする。また、改良点があれば、ぜひご指摘いただきたい。 (株式会社資料保存器材代表 木部徹)

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作業を行う上での安全対策
 
今回対象となる資料は汚泥やカビだけではなく、その他の有害な物質に汚染されている可能性が考えられる。人体への安全性を第一に考え、長時間の作業で体調を崩すことのないよう、以下の点に十分に注意する必要がある。

  • 換気に気をつけて作業する。特にドライ・クリーニングはできるだけ屋外で行う。屋内で行う場合には、塵埃を撒き散らさいようにHEPAフィルター付き真空掃除機(※)で吸引しながら行う。
  • エプロンを着用するか、汚れてもよい服装で行う。
  • 塵挨やカビ胞子が飛散する恐れがあるので、NIOSH N95準拠のマスク(※)を必ず着用する。
  • 使い捨て手袋をなるべく使用する。ドライ・クリーニングや消毒用エタノールを使用した殺菌処置を行う場合は必須。
  • 作業後には手洗い・うがいを行う。
  • 作業中に体に何らかの異変が起きた場合は、すぐに作業を中断して医師に相談する。

※ HEPA掃除機やN95マスクについてはこちらを。



復旧処置工程  

下記作業(解体から乾燥まで)を3~4人で行った場合の1日の処置量は、250~300枚程度(A4版換算で)/日。

ここで使用する機材については、「必要機材リスト」を参照。 



①解体・ナンバリング  

簿冊、ファイル文書、和装本など表紙がある資料は、紐や糸を切る、ファイルから外すなどして、表紙から本文紙を取り出す。ステープルやクリップなどの金属物は除去する。その後、スパチュラや竹べらなどを用いながら本文紙を1枚ずつ剥がし、順番を違えないように本文紙の右下隅に、鉛筆で通し番号を書く。破損や汚れ等で右下隅への書き込みが難しい場合は、その付近で書き込み可能なところに記入する。ポスターや図面など、オモテ面への番号記入に差し障りがある場合は、ウラ面の右下隅に書き込むのも可。ページ番号があるものは、特に必要ない。一枚もので順不同になっても構わない場合は、ナンバリングは行わない。


②ドライ・クリーニング  

刷毛や超極細繊維のクリーニングクロスを使用して、資料表面の泥・砂・埃・カビ残滓等を除去する。刷毛やクロスを直接あてると破損を招く恐れのある脆弱な資料に対しては、資料にネットを被せ、その上から掃除機で吸引すると良い。刷毛やクロスを用いる場合、汚れを取ろうと力を入れすぎると、資料を傷めることになるので注意する。特に、紙力の落ちた資料や和紙の資料は、摩擦によって紙を傷めたり、紙の中に汚れを擦り込んでしまったりするため、気を付ける。部分的に固着した泥等は、スパチュラやピンセットを使って物理的に取り除く。この場合も、必要以上に行うと資料を破損させる恐れがあるので、無理には行わず、次の洗浄工程に委ねる。

なお、ドライ・クリーニングの工程は、洗浄以降の工程とは別に、あらかじめまとめて行っておいて良い。




【注意事項】
  • 使用した刷毛・クリーニングクロスは他の用途に転用しないこと。作業が終わったら、良く洗浄してアルコール殺菌する。
  • 人体に有害な塵挨やカビ胞子を作業場に拡散させないように、基本的に屋外で行うのが望ましい。屋外での作業が難しい場合は、 HEPAフィルター付き掃除機と、覆いとなるもの(コルゲート・ボードの箱など)を組み合わせた簡易的な設備(ドライ・クリーニングBOX:動画参照)を 利用すると、周囲への粉塵の飛散を抑えられる。


③洗浄

バットやコンテナに水を張り、発砲プラスチックボードなどを浮かせて作業台とする(フローティング・ボード法[注1])。資料をネットの上に載せ、軽く折れやシワを伸ばす。別のネットを資料の上に被せてから発泡スチロール板の上に載せる(「フローティング・ボード法(断面図)」参照)。板を軽く押して、資料の上に水を流し入れる。その後、ネットを外し、資料を刷毛で直に撫でながら、汚れを落としていく。片面を洗い終えたら、再びネットを被せてネットごと裏返し、もう片面も同様に洗う。ただし、薄い和紙や、虫損の酷い資料、あるいは紙力が落ちている資料は、直接刷毛をあてると破損を招く恐れがある。その場合は、ネットを被せたままネットの上から刷毛で撫で、汚れを穏やかに落とすにとどめる。

汚れの著しい資料に対しては、バット等を2つ用意し、1つをすすぎ用とするのも良い。その場合も、発泡スチロール板上で行う。


洗浄が終わったら、ネットごと資料を持ち上げ、軽く水気を切ってから吸水クロスの上に置く。その後、資料を挟んでいたネットを不織布に取り替えて、フラットニングの工程に備える。取り替えの手順は以下の通り。まず、オモテ側のネットを外して不織布に換える。次に、ネットと不織布に挟んだ状態で資料を裏返し、オモテ側に来たネットを外して不織布に換える。最後に、不織布の上から吸水クロスや吸水スポンジで軽く押さえて、水分を取り除く。



                

 フローティング・ボード法(断面図)
フローティング・ボード法(断面図)


【注意事項】 
  • インクが滲みやすく、文字が消失する恐れのある資料に対しては適用を避けたほうが良い 。
  • 不織布は、後の乾燥・フラットニングにおける紙の挙動に大きく影響し、仕上がりを左右する重要なポイントとなる。そのため、ここでは寸法安定性と柔軟性に優れ、かつ高強度であり、表面が滑らかな下記の不織布の使用を勧める。

    「湿式不織布 05TH-20 (ポリエステル100%)」 廣瀬製紙株式会社製 (「必要機材リスト」を参照)
  • ボードは、水に浮くものであれば木の板でも構わないが、発泡スチロール板やスチレンボードは軽量で加工しやすく、一定の強度があり扱いやすい。また、ほど良く「しなって」水を上に流しやすいという点も、この用途には適している。
  • 洗浄には温水を使用しても良い。特に寒い時期の作業では、温水使用が望ましい。
  • 特に脆弱な資料については、(株)資料保存器材の特許技術「クリーニング・ポケット法」を利用する方法もある。しかし、脆弱な資料は基本的に扱いが難しいため、判断に迷った場合は専門家の手に委ねた方が良い。クリーニング・ポケット法の詳細はこちら。なお、同法も非営利目的に限って無償提供する。
  • 殺菌処置を行う必要がある場合は、洗浄前にネットの上で乾いた資料を伸ばす際に、消毒用エタノール等を噴霧する。濡れた状態でのエタノール噴霧は殺菌効果がほとんどない。


④乾燥・フラットニング  

コルゲート・ボードの上にろ紙を置く。そのろ紙の上に不織布に挟んだ資料を載せる。次に資料の上にまたろ紙を置き、最後にコルゲート・ボードを重ねる。全体の構造としては、資料を不織布でサンドイッチ、不織布をろ紙でサンドイッチ、ろ紙をコルゲート・ボードでサンドイッチとなる(断面図を参照)。これを洗浄した紙ごとに繰り返し、高さ30センチ程度まで積み重ね、一番上にプレス板を載せる。積層したボード類を固定し、若干の圧力をかけるため、適度な重さの重石(動画では6kg)をプレス板の上に置く。コルゲート・ボードの孔のあいた断面側に扇風機を配置し、風を2~4時間(紙の種類等により異なる)当てて乾燥させる(エア・ストリーム乾燥法[注2])。



                エア・ストリーム乾燥法(断面図)
エア・ストリーム乾燥法(断面図)


【注意事項】
  • 資料を挟んだ不織布の端が、コルゲート・ボードからはみ出さないように注意する。コルゲート・ボードの孔を不織布で覆ってしまうと、送風機能が十分に働かず、乾燥ムラができたり、乾燥時間が長くなったりする。
  • 「③洗浄」から「④乾燥・フラットニング」までは一連の流れで行う必要がある。作業人数が多く、1日でかなりの枚数の洗浄~乾燥・フラットニングを行える時は、上記のエア・ストリーム乾燥法のユニットを幾つか並べて使う方法と、スチールラックと工業用扇風機を組み合わせ、縦に連結したユニット(縦型連結ユニット:動画参照)を新たに作成・導入する方法がある。縦型連結ユニットは、大量の資料(約100枚/棚×3棚=約300枚(A4))を省スペースで一度に乾燥できる。 


⑤整理・保管  

乾燥を終え、フラットになった資料を取り出し、元の順番に並べる。簿冊やファイル文書など、簡単に綴じることができる資料は新規の糸やファイルを用いて綴じ直す。それ以外のものについては、資料を冊ごとに別の紙でくるみ紐等で束ねる、もしくは封筒に入れて保管する。



※ 上記の復旧処置作業は、専門的な知識や技術を持たない方へ向けたものとなっている。資料の綴じ直し・再製本や本格的な修復が必要な場合、判断に迷うような資料状態の場合は、別途専門家に相談すること。


資料の仕上がり(サンプル)

<処置前>                                           <処置後>
01和本処置前  02和本処置後 03洋装本処置前  04洋装本処置後 05ファイル文書処置前  06ファイル文書処置後 07一枚物処置後前 08一枚物処置後




[注1] フローティング・ボード法によるクリーニングは1966年のフィレンツェでの大規模図書館・アーカイブ被災資料の汚れ落としに導入された。 Cains, Anthony (2009), The work of the restoration centre in the Biblioteca Nazionale Centrale di Firenze 1967-1971, In; Conservation Legacies of the Florence Flood of 1966, Proceedings from the Symposium Commemorating the 40th Anniversary, 29-70.

1966年のフィレンツェ被災文書の洗浄に導入された
フローティング・ボード法。木製の板(合板)が使われた


[注2] 1980年代に米国西海岸の印刷所でリトグラフ等の印刷直後の湿った紙を早くフラットに乾かすために開発され、ペーパー・コンサベーションの分野でも使われるようになった。この乾燥法の科学的な裏付けについては 「エア・ストリーム乾燥法―大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する」 を参照。

エア・ストリーム乾燥法–大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する

津波により泥や塩水を被った文書や書籍などを、再び利用できるように復旧するためにはさまざまな問題がある。資料を解体し、一枚ものにした後に、乾いた泥を物理的に除去し(ドライ・クリーニング)、真水で汚れや塩分を洗い流す(ウェット・クリーニング)ことができたとしても、その次のステップである乾燥を首尾よく仕上げるのは簡単ではない。まして、それが大量にある場合には、たくさんの吸い取り紙を接触させ、水を吸い取ったら、新しい吸い取り紙に取り替えるという作業を延々と繰り返す必要がある。さらに、乾燥後の仕上がりをフラットに保つように調整していくのは、専門家にとっても易しくない。

こうした問題を解決するのがエア・ストリーム乾燥法(air stream drying of paper)である。

大量の湿った紙を、一枚づつ段ボールでサンドイッチし、これを積み重ねた束(スタック)の段ボール波板の隙間に強制的に空気を流す。すると絶えず新しい乾燥した気流が、濡れた紙の湿気を均一かつ急速に水蒸気に替えながらスタックから外部に送り出し、乾燥させる。ワンサイクル3~4時間ぐらいで乾燥が終わる。中途の吸い取り紙の交換も不要である。





この革新的な乾燥法は1988年に米国のコンサーバターの R. Futernick が提案し、90年代には米国の一部の工房で使われるようになった。2000年代に入ると、ヨーロッパのコンサベーション機関でも採用するところが出てきた。救援隊の構成メンバーである株式会社資料保存器材も同様である。そして、今年(2011年)になり、シュトゥットガルトの Staatliche Akademie der Bildenden Künste はエア・ストリーム乾燥法の科学的な裏付けを行い、Restaurator 誌 に Air Stream Drying of Paper として発表した。今回、著者らの快諾の元に、以下に全訳を掲載した。著者の一人であり、ヨーロッパの紙媒体の保存科学の指導的役割を果たしている Gerhard Banik 氏からは、翻訳許諾とともに、「今回の大震災の被災資料の救助に役立ててもらえたらことのほか嬉しい」という言葉が添えられたこともお知らせしたい。

「エア・ストリーム乾燥法--大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する」(蜂谷伊代訳)


なお、東京文書救援隊は、被災した紙媒体資料の復旧システムを、スキル・トレーニングと合わせて、現地の方々へ提供するボランティア活動を進めている。同システムは救援隊の構成メンバーである株式会社資料保存器材が専門的なペーパー・コンサベーションの仕事で培ったノウハウそして特許技術を組み合わせたものであるが、このシステムの最も重要な最後の工程がエア・ストリーミングによる乾燥である。先人たちの成果を踏まえ、どこでも手に入る身近な資材による簡易な乾燥ユニットを作った。近々に公開するシステム全体のマニュアルと動画の中で、下図の乾燥ユニットも詳しく紹介する。


東文救処置システムの乾燥ユニット
500~1,000枚/日が平らに乾燥できる

紙を安全に洗うためのクリーニング・ポケット法、東日本大震災での被災資料復旧に特許を無償提供


 

紙を洗う—これは紙資料の保存修復処置における最も重要な処置の一つである。変色や染みなどが軽減されるほか、経年や利用によって紙の中に生成され、それ自体が劣化の原因にもなる水溶性の酸性物質が流れ出る。また、乾燥時に新たな水素結合が生じることで、紙の強度が戻るなどの効果もある。紙の「洗濯」は、紙の見た目を綺麗にするばかりでなく、紙の劣化に関わる根本的な問題への対処とも言える。

このように、洗浄は様々な利点を有しているが、処置におけるリスクもある。その一つとして、水を含んだ紙は極端に強度が低下し、不用意に扱うと破れや歪みが生じてしまうことが挙げられる。そこで、洗浄を行う場合、資料をポリエステルやセルロース系の不織布、またはナイロン製のネットなどのサポート材に挟んで処置するのが一般的である。しかし、この方法を用いたとしても、資料を安心して洗浄できるほどしっかりとした保護にはならず、取り扱いには細心の注意を払う必要がある。また、酸性劣化やカビの影響で紙力が著しく低下した紙や、図面・ポスターなどの大型資料に対しては、取り扱いの難しさから、洗浄処置を行えないこともあった。

上記の問題を解決し、安全かつ効果的な洗浄方法を実現するため、東京文書救援隊のメンバーである株式会社資料保存器材では「クリーニング・ポケット法」を開発し特許を得ている(特許第4721042号)。上記の写真のように、大量の紙媒体の汚れを、水中で「洗濯」するように、安全に除去することができる。この特許を、今回の東文救の活動のために、非営利目的での使用であれば、クレジットを明示する条件で、無償提供することにした。公的機関における使用は勿論のこと、今回の東日本大震災によって津波などの被害を受けた被災資料のうち、この方法が適用可能なものには、洗浄法の一つとして有効活用していただきたい。詳細は以下に。




白岩洋子「水害にあった写真の救出方法」

紙本(アート・オン・ペーパー)と写真の修復家である白岩洋子氏の「水害にあった写真の救出方法」を掲載しました。


白岩さんは今回の震災直後に被災地の岩手県大船渡市に入り写真の救出に尽力、いま現在も支援を続けています。この実践を踏まえて、表記の救出マニュアルを作成しました。白岩さんの快諾を得て、最新版を当方のブログに掲載させていただきました。





白岩洋子「水害にあった写真の救出方法(2011.5.15 更新) 

日本ファイリングが東日本最大規模の真空乾燥と滅菌の一貫処置設備を稼働へ





株式会社日本ファイリング(本社:東京都千代田区)はこのほど茨城工場(茨城県常総市)に東日本最大規模の乾燥と滅菌が一度にできる真空乾燥・滅菌設備を設置した。同設備は本来は酸性劣化した図書や文書の脱酸性化プラントとして長く稼働してきたものだが、同社では今回の東日本大震災で被災した書籍や文書などの乾燥・滅菌設備への転用を進め、その目処が着いたとしている。

同設備の容量は7.6立方メートル。A4版の書籍ならば20~25冊収納できる専用コンテナが72個収納でき、一回の稼働で約1,000冊(A4版書籍換算)が処理できるという。処理時間は設備への搬入から搬出まで約4~5日。凍結乾燥等の従来法よりも格段に早く、しかも乾燥後のエチレン・オキサイドによる滅菌が同じ設備で連続して行えるのも特徴である。

ただ、海水に浸り泥に汚れたサンプルを元にした試験運転の結果、津波で被災した紙媒体資料を完全乾燥に持ち込むには、設備に入れる前に真水での洗浄を行う必要があることがわかった。これは、今回の被災資料が現場に放置された時間が長く、紙の中に海水が浸透し、過剰な塩分が残留しているのが理由という。塩が紙の中に入ったまま乾燥すると、乾燥時間を長くしても、塩の中の水を出し切るのは難しいとしている。こうした前処理は、凍結乾燥でも行われている不可避の作業になるとしている。このため同社では、受け入れた後に工場内で真水の流水による洗浄も行う体制も整えるという。事前洗浄は人手が必要な作業であり、このための費用は、乾燥・滅菌とは別になる。

依頼者は、同社から送られる専用コンテナに被災資料を詰め込み、それを同社の仙台市にある配送センターに送る。それを同社の専用車が引きとって茨城工場に送り、処理後に依頼者に送り返すという工程になる。

同社は同じ設備を使った脱酸性化処理では有数の技術と実績を持ち、書籍や文書の扱いにも慣れているが、今回のような泥と海水で被災した資料を扱うのは初。このため、真水での洗浄の日数や処理全体費用および代金など、まだ「手探り」の事項があるとしながらも、早急に見通しをつけて、東日本大震災で被災した資料の救助に貢献したいとしている。

日本ファイリングの被災資料の乾燥と滅菌の相談窓口は以下の通り。

株式会社日本ファイリング販売本部本店第2営業部・資料保存担当 須藤猛彦
電話:03-5294-3011 メール:t.sudo@nipponfiling.co.jp


※ 東京文書救援隊はこの設備の設営に全面的に協力しました。救援隊窓口でも当初の問い合わせには応じますが、内容を確認させていただいた後に、同社のご担当にバトンタッチします。救援隊自体が処置を行うことはありません。

私たちがお手伝いできること

私たちがお手伝いできること-それは被災現場から救出された書類、書籍、写真等をモノとして利用できる状態に戻すための文書復旧システムの導入支援です。具体的には現場での処置システム設計と、簡単なスキル・トレーニングです。支援対象は図書館、アーカイブズのほか役所、学校、病院、企業、寺社、個人等です。私たちは、資料救出に当たられている方達と連携するとともに、被災現場で困難に遭遇している方達への直接的な支援を行います。



はじめに

今回の東日本の大震災により被災した資料の救出が各地で始まっています。各地域単位の資料レスキュー・ボランティア組織、また文化庁指導レスキュー・プログラム傘下の組織等が、困難な現場で救出作業を行っています。

被災現場から救いだされた資料は、海水を被っているため、できるだけ早い時期に乾燥させる必要があります。少なくない数の資料に対し既に真空凍結乾燥等の処置が行われています。また、現場での自然乾燥も行われています。

しかし、資料の大半は乾燥したままの状態では利用できないのが現実です。泥を落とし、汚れや塩分を洗い流し、初期の乾燥による変形や歪みを直して紙を平らな状態に戻す処置が必要です。私たちが提供するのは、そのための文書復旧システムとその導入支援です。


シンプルかつ廉価で、専門的なスキルは不要

この文書復旧システムに使用する資材は入手が容易かつ廉価で、処置作業もシンプルな工程の組み合わせです。このため、専門的な処置技術のない現場でも、作業場所、マンパワー、一定の資金の目処がつけば、私たちボランティア・グループによる2日間程度のスキル・トレーニングを受けた後に、処置ラインを組み、すぐに作業を始めることができます。

国内外の様々な被災資料の現場で復旧に使われてきた方法と私たちが培ってきたノウハウと技術を組み合わせた処置システムは、少数の作業者で運営できます。また、被災資料の量、マンパワー、作業時間に応じたラインの増減が容易です。

とはいえ、被災地では資材の入手もままならないことがあるでしょう。資金的に困難な場合も、特に民間においては想像されます。こうしたところへのサポートも、可能なかぎり行います。ご相談下さい。


対象とする被災資料とは?

以下のような、紙媒体の資料です。

・一枚もの(ポスター、新聞、地図、図面、書簡、葉書、賞状、書類等)
・簿冊
・ファイル文書
・和装本、漢籍
・小冊子・雑誌
・洋装書籍
・紙焼き写真

※紙媒体以外の資料の復旧については、別の専門機関やボランティア・グループをご紹介します。


現場での処置開始までの流れ

① 救援隊への電話、メールなどでのお問合せ

② 救援隊スタッフが資料等確認のために出張し、依頼者と打合せ 

③ 現地での必要資材の調達、作業場所および作業スタッフの確保の確認

④ 機材等の搬入・設営と依頼者(作業責任者や作業者)へのスキル・トレーニング⇒実際の処置開始 (併せて2日程度)


文書復旧システムの公開説明会

私どもは、提供する文書復旧システムを実際にご覧いただく機会を設けております。どのような機材を使用し、どのように処置を進めるか、その一連の作業工程をご案内いたします。そのために被災地及び東京地区での公開説明会を予定しています。期日・場所は当HPで順次、お知らせします。また、電話・メール等でのお問合せにも応じます。


乾燥が十分ではなくカビも心配な場合

私たちの支援は、応急的に救出され乾燥を終えた資料への復旧処置が主です。しかし、現場から救い出したものも、まだ乾燥が十分ではなく、カビやバクテリアの繁殖が懸念される資料もあると想像されます。少量の場合は私たちが提供する処置ラインへのアルコール殺菌工程の組込みができます。また、大量の資料の乾燥処置については現在、技術的な点を調整中で、近々紹介いたします。
(追記:こちらをどうぞ。日本ファイリングが東日本最大規模の真空乾燥と滅菌の一貫処置設備を稼働へ

被災資料の復旧処置システム


ここでご紹介するのは、一枚ものや簿冊、ファイル文書、和装本などに対して行う処置の一例です。すでに乾燥したもの、もしくは湿り気がほとんどなくなった状態のものですが、他の資料においても基本的な処置ライン(ドライ・クリーニング→洗浄→乾燥・フラットニング)は同様です。なお、使用した機材や処置工程の詳細については追って公開します。



①解体・ナンバリング

簿冊、ファイル文書、和装本などの表紙のあるものは、紐や糸を切る、ファイルから外すなどして、表紙から本文紙を取り出す。本文紙1枚1枚に対して、順番を違えないように番号を付ける。



②ドライ・クリーニング

掃除機、刷毛、超極細繊維のクリーニングクロスを使用して、資料表面の泥・砂・埃・カビの残滓等を除去する。固着した泥等は、適宜スパチュラやピンセットを使って物理的に取り除く。



③洗浄 (インクが水に滲みやすく、文字が消失する恐れがある資料に対しては適用不可)

水を張ったバットに発泡プラスチックボードなどを浮かせて作業台とする(フローティング・ボード法 1)。その上にネットに挟んだ資料を載せて、刷毛を用いながら泥汚れ等を穏やかに落としていく。その後、資料をネットから不織布へ移し替える。脆弱な資料については、(株)資料保存器材の特許技術である「クリーニング・ポケット法」(非営利目的での使用のみ無償提供)を利用する方法もある。



④乾燥・フラットニング 

不織布に挟んだ資料の水分を吸水クロスで取り、そのままコルゲート・ボード(段ボール)の上へ移動する。不織布に挟んだ資料を載せたコルゲート・ボードを積み重ね、横から扇風機やブロアーで風を3~4時間当てて乾燥させる(エア・ストリーム乾燥法 2)。



⑤整理・保管

乾燥を終え、フラットになった資料を取り出し、元の順番に並べる。簿冊やファイル文書など、簡単に綴じられる資料は綴じ直し、それ以外のものについては冊ごとにまとめて紐等で束ねる、もしくは封筒に入れて保管する。



※ 殺菌処置が必要な場合は、消毒用エタノールの噴霧などによる殺菌を処置ラインに組み込むことも可能です。なお、大量の資料に対して一括で行う応急処置(乾燥および殺菌)についても、大型乾燥設備による処置の技術的な詰めを進めており、近々紹介いたします。

また、上記内容は、専門的な知識や技術を持たない方へ向けたものとなっています。資料の綴じ直し・再製本や本格的な修復が必要な場合、判断に迷うような資料状態の場合は、別途ご相談ください。



処置事例
処置前                     処置後



[注1] フローティング・ボード法によるクリーニングは1966年のフィレンツェでの大規模図書館・アーカイブ被災資料の汚れ落としに導入された。資料全面をしっかりと支える板上で刷毛を動かしやすく、しかも水面に浮いているので汚れを逃がしやすい。 Cains, Anthony (2009), The work of the restoration centre in the Biblioteca Nazionale Centrale di Firenze 1967-1971, In; Conservation Legacies of the Florence Flood of 1966, Proceedings from the Symposium Commemorating the 40th Anniversary, 29-70.

[注2] 1980年代に米国で開発された乾燥法。ダンボールの波板の間に風を流すことで、乾燥とフラットニングが短時間にできる。しかもろ紙などの取り替えもないので手間が省ける。科学的な裏付けについては Banik, Gerhard et al.(2011), Air-Stream Drying of Paper, Restaurator 32, 27-38. を。全訳「エア・ストリーム乾燥法--大量の湿った紙媒体を早く、平らに乾燥する」 はこちら