山川菊栄著 「武家の女性」 (岩波文庫 青 162-1)

暮れに友人が昨年読んだ本の中から良かったものと勧めてくれた。

東京では買いそびれて帰省した年末、暮れもおしせまった日に、散歩中に通りかかってここならあるかもと寄ってみた岡崎書房。ちゃんとおいてあったのがまずうれしかった。

幕末水戸藩の下級武士青山延寿(著者の祖父)の家の様子を、著者の母千世から伝え聞いたことを随筆風にまとめたもの。

弘道館の一角にあったというこの青山延寿の家というのが、僕が40年ほど前によく祖父母に連れられてウロウロ遊んでいた場所だということ。そして、60年ほど前には僕の母が中高生時代を過ごした町だということ。その馴染のある町の160年前の様子だと思うとそれだけでなんだかうれしい。

当時の祖父母の家は那珂川を挟んで反対側の岸に建っていたから、弘道館とは直線距離だと1キロぐらいだろうか。那珂川の河川敷へピクニックにいった話などは川べりの風景を思い出しながら読んだ。当時の祖父母の家のあった青柳町は大洪水の後の護岸工事で跡形もないけど。

薄い本なのでガツガツ読むとすぐ終わってしまうけど、ちょっとづつ時間をかけて味わって読むのにいい本だなあと思う。

個人的な思い入れなんてなくても下級武士の実生活の様子というのは、僕はこの本で初めて読んだと思う。細かいところまで気の利いた文章で心地良いのも良かった。

つかこうへい正伝 1968-1982

つかこうへいの芝居は観たことがない。

芝居を観たといえるのは光源寺で年に一回興行していた水族館劇場だけだと思う。これはとても楽しみなイベントだった。そういえば小倉公演にも仲間とツアーを組んで飛行機ででかけた。

この本の中に劇場に観客が入りきらなくて、スタッフが舞台前で桟敷に座っている客に向かって「はい、お尻を上げて右に10センチずれてください、せーのっ!」とやってる場面があって、あっ、これは水族館劇場でもあったなあと懐かしくなった。また観たいなあ。

ぼくは、つかこうへい作品では映画「蒲田行進曲」、小説「広島に原爆を落とす日」の2作にしかふれていないと思う。「熱海殺人事件」は筋を知っているから何かでみたかもしれないけど覚えていない。

1992年頃に小説「広島に原爆を落とす日」を単行本で読んでひどく興奮したことを覚えている。それ以来なんとなく気になっているけど他の作品に接しようと思わなかったのはなんでかなあ。まあこの本を興味深く一気に読んだあとでも、何か他に読んでみようと思わないというのは合わないってことなんだと思う。

以下断片的に。

堀田善衛の娘、堀田百合子と慶応文学部で同級生で、惚れてたようだというのが興味深い。田舎からでてきた自信満々の大学生が、東京の洗練された女子大学生に抱く気持ちが自分にもわかって痛々しくて。つかこうへい撮影のスナップ写真も載ってるけどかわいいもんなあ。

根岸季衣は最初にみた記憶はたぶん「ふぞろいの林檎たち」、まだぼくは子どもだったけれど雰囲気が独特であのドラマの中でもちょっと存在感が浮き上がって感じたなあ。こんな風につかこうへいを経由してたんだな。

三浦洋一もつかこうへい経由とは実は知らなかった。彼も独特の存在感があったな。平田満はぼくにはよくわからない。やっぱりつか舞台の人なのかも。

上橋菜穂子 「獣の奏者」 全5冊合本版(講談社文庫)

講談社
発売日 : 2014-11-28

堪能した。上橋菜穂子の小説は初めて読んだ。直木賞の「鹿の王」はまだ読んでいない(年末年始に読みたい)。

ファンタジー小説は長いしうまく乗れないと辛いので躊躇してしまうのだけど、Kindleで5冊合本でこの価格ならと駄目なら駄目でいいかと読み始めたら、すっかりエリンの世界にはまって4日間で読み終えた。

どうもこっちが知らなかっただけで有名な作品だったみたいで、内容をあれこれいうのは恥ずかしいので何も言わない。

暮れになって追っかけて読みたい作者を見つけられたことがうれしい。

ハヤカワ文庫SF総解説2000

著者 :
早川書房
発売日 : 2015-11-20

楽しい本だなあ。拾い読みがとにかく楽しい。

買ってしばらくはカバンにいれて持ち歩いてちょっとした隙間の時間に拾い読みを楽しんだ。いつまでも読んでいられる。

読んだことのある作品解説も楽しいし、読んだことのない作品解説も楽しい。どっちも楽しい。

無人島本かもしれないと思った。例えばアシモフの小説を一冊持っているのと、この本を持っているのとを考えると…こっちだなあ。

読んだ記憶の断片だけを楽しむのも悪く無い。ずっと手元に置いとく本。

J.P. ホーガン 「星を継ぐ者」、「ガニメデの優しい巨人」、「巨人たちの星」

一気に三作再読。やっぱり面白いなあ。

と勢いで「内なる宇宙 上」を読み始めたんだけど…こっちはなかなか乗れず。積読に逆戻り。なんでかなあ。

冬の本

読み終わるというか、ひととおり読んだけれど、寒い間は枕元においてパラパラ読んでいたい。

ゲーデルの哲学 (講談社現代新書)

本書の主題はゲーデルの哲学で、不完全性定理についてはだいたいイメージをつかむのが重要だというスタンス。
なのだけど、不完全性定理がだいたいどういったものなのかという解説が、僕が今まで読んだ初心者向け本では一番わかり易いと思う。

何か悩みがあったり、落ち込んだりした時には、宇宙や数学の本を読むのはいいですよ。買っておいて、なにか落ち込んだ時に開くといいのでわ。何度読んでも完全に理解するのは難しいということは、何回でも使えるってことですよ。

導入のパズルが秀逸。僕の読んだ入門書としてはNo1。

文化系トークラジオ Life のやり方

聴きだしてからもう4年ぐらいになるかな。ポッドキャストで毎月聴いている「文化系トークラジオ Life」の番組本。正直に言えば僕はあそこにいたいとは思わないけど、この番組の部室感は遠巻きに眺めているぶんには楽しい。

書き起こしも興味深いけど、長谷川プロヂューサーの導入エッセイが面白い。

これを読んでポッドキャストデビューもいいんじゃないかな。

半落ち

今頃ですが。読んでいなかったので。古書店で100円で買って来ました。あっという間に読み終わって、後には何も残りませんでした。
エンディングのエピソードも僕はそれほど感心しませんでした。

一気読みできるのは間違いないので、数時間の暇つぶしには良いと思います。100円で買えるし。

「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー

往来堂のポップに惹かれて購入、あっという間に読了。

開成まで徒歩3分のところに4年暮らして、その後も徒歩圏で暮らしている身としては、そして元高校球児としては、読まずにいられないもの。

開成高校の野球部が珍妙だということがベースにあるようだけど、僕の感覚では彼ら高校生の言ってることの方が、高校球児時代の僕の感覚に近い。これに当惑してしまう大人(になってしまった僕)の方が不思議な感じもあります。

本を読んで吹き出したのは久しぶり。僕は生徒側の視点で読んで、あるあるがたくさん。かえって筆者の当惑ぶりが面白かったなあ。

藝人春秋

帰省のために新幹線に乗ろうとして、カバンの中にある本を確認しようとしたところ、何もない。一冊も持ってきていないことに気づいた。

慌てて東京駅構内を走って書店を探し、平台をざっと眺めたところ本書が目についた。パラパラみると2時間ほどの新幹線移動にちょうどよさそうな気がして購入。新幹線車内で読みだしたら没入してしまい、豊橋まであっという間に過ぎた。数日ぶりにあった子どもたちともちょっと遊んだだけですぐに本に戻り寝る前に読了。

まあ、いわゆる芸能人本とはちょっとレベルが違うので、抵抗ある人は文庫になってからでもいいから、読んでみるといいと思いますよ。

火山のふもとで

夏の間浅間山のふもとにある別荘へ事務所を移して仕事をする建築事務所の話。松家仁之氏のデビュー作。

愛おしい物語と静かで丁寧な語り口に深く魅せられた。読み返し必至。僕が今年読んだ中で最良の小説(実は今年はあんまり小説を読んでないのだけど)。

読みはじめからクレストブックス感を感じていたのはどうもあながち見当はずれというわけでもないらしい。松家氏はクレスト・ブックスの立ち上げに関わっていたとのこと。

最後の大独演会

談志が死んだ年。

本としての出来を言えばCDの録音状態のひどさも相まって、まあ、便乗本といってもいい雑な作り。

だけど、談志と太田光とビートたけしがしゃべってるんだから面白いのは間違いない。談志以外の2人はだいぶ遠慮がちだけどね。

恐怖対談 – 吉行 淳之介

ほうろうの棚で見かけてなんだかとても懐かしくなって、吉行淳之介の「恐怖対談」を買ってみた。100円だし。

四半世紀前、大学生の頃に吉行淳之介の新潮文庫はほとんど全部読んだと思う。叔母が持っていたのを端から読んでいった。

内容は今となっては全然覚えていない。あんなに読んだのに、もの凄く面白かったと思った印象がない。大人が読んでる日本の現代小説はどういうものなんだろ、と勉強していたような感じだったのかも。他には立原正秋とか。

小説の内容はほぼまったく覚えていないけれど、この恐怖対談は読んだのを覚えている。10人との対談のほとんどを、吉兆で食事しながらしゃべってるんだよ!淀川長治さんさえも吉兆で食事できることを喜んでいる。

作家になりたいと思ったことはなかったけれど、こんなにしょっちゅう吉兆で飯食ってしゃべってられるんなら、作家はいいなあ、なんて思ったんだった。

今回、読み直してみた感想。やっぱりうらやましいなあ。吉兆で飯食ってしゃべくって。

淀川長治さんと吉行淳之介が対談の少し前に、日曜洋画劇場で放映された「激突」を絶賛しているのを、当時の僕は全然何とも思わなかったのかな。

北杜夫との対談で北条民雄の名前を出したところはぞくっとした。

今東光との対談も面白い。本郷菊富士ホテルに谷崎潤一郎を訪ねたときの話なんて、ホントかよ。その頃菊富士ホテルには、泉鏡花があの絵のモデルの彼女と暮らしてて。。。

内容とは関係ないけれど、昭和55年発行のこの文庫本にはどこにもISBNが書いてない。カバーにも奥付にも。ISBNがほとんどすべての書籍についたのって結構最近の話なんだよね。

バーコードとなるともっと後。
17年ほど前に出版流通の仕事を始めた頃に、バーコードがデザインの邪魔だから入れないという話を会議の場で聞いた覚えがある。こっちは物流が仕事でそういうのが困るんだよなあ、と思ったけれど口には出さなかった。確か営業が反対してしぶしぶバーコードが入ったんだった。

今では取次流通する本でISBNバーコードのついていないものを探すのは難しいけれど。


今週末は、秋も一箱古本市2010

5月のゴールデンウィークと10月始めのこの時期は、自転車で近所を走り回るのが恒例になってもう5年。この5年は個人的には激動の5年でもあってちょっとした感慨が。

秋も一箱古本市2010、開催決定!

2010年10月9日(土)11:00~16:30
雨天の場合は10月10日(日)に順延

会場
古書ほうろう/コシヅカハム/古書 信天翁/谷中 松野屋
ライオンズガーデン谷中三崎坂/大円寺/往来堂書店/宗善寺


僕は実行委員とかいわれながらも、ほとんど事前準備には参加していなくて、いつも当日の自転車部隊だけ。今年はいっつもこっちを見てる子供が3人と会社勤めの生活があいまって、例年以上に事前準備に参加できなかった。

気がつくと、当日の仕事が割り振られていない!ちょっと寂しい気がしたけれど、まあいいか。初めてすべての会場をちゃんと本を見ながらまわってみることにする。

今のところ天気もなんとかなりそうな気配。

ToDo
- 予算確保。
- 2歳児を連れてまわるからルートを確認しておくこと。


春宵十話 - 岡潔

春宵十話 随筆集/数学者が綴る人生1 (光文社文庫)

長く読まれているようだけれど、僕は今回初めて読んだ。と思う。ちょっと既視感があるけれど、たぶん気のせい。
最近新潮文庫からでた小林秀雄との対談「人間の建設 」を読んだのがきっかけ。ことばの使い方が独特でもっと読んでみたくなった。ちなみにこの「人間の建設」もとても面白い。今ならどこの書店でもすぐに手に入るしおすすめ。

この「春宵十話」は、岡潔が話したことを文章にまとめたもの。それはないだろう、という発言もたくさんあるのだけれど、岡潔の正直さが心地よくて、とてもよい気分になる。

春の野に咲くスミレはただスミレらしく咲いているだけでいい。
咲くことがどんなによいことであろうとなかろうと、それはスミレのあずかり知らないことだ。
咲いているのといないのとではおのずから違うというだけのことである。

存在を全肯定していると勘違いしてしまうかもしれないけれど、そういう文脈じゃない。でもそういう勘違いとして受け取っても気持ちいい。

職業にたとえれば、数学に最も近いのは百姓だといえる。種をまいて育てるのが仕事で、そのオリジナリティーは「ないもの」から「あるもの」を作ることにある。数学者は種子を選べば、あとは大きくなるのを見ているだけのことで、大きくなる力はむしろ種子のほうにある。

この後、物理学者は指物師だ、と続く。

戦争中を生き抜くためには理性だけで十分だったけれども、戦後を生き抜くためにはこれだけでは足りず、ぜひ宗教が必要だった。その状態はいまもなお続いている。
宗教はある、ないの問題ではなく、いる、いらないの問題だと思う。

いる、いらないの問題。僕はまだいまのところはいらない。

しかし、春のぽかぽか陽気にのろうと昨日読み出した訳だけど、読み終わった今日の寒いことよ。気温差15度ってどうなんだ。